from 野村尚義

プレゼンテーション用スーツスーツを買いに行って、店員さんからうけた接客が極上のプレゼンテーションだった話。1着しか買わないつもりだったのに、予算を越えて2着買ってしまった…。

その背景にあるのは、もちろん感情的にくすぐられたこともありますが、私としては素晴らしいプレゼンテーションをしてくれたことに対するおひねりの意味も少なくありません。

どのように素晴らしいプレゼンテーションだったのか?ダイヤモンドギフトのフレームに分解して、解説していきましょう。

 プレゼンテーション戦略:ポジショニング戦略の違い

1日で10店舗ほどをまわったのですが、その店員さんは他の店員さんとはポジショニングが明らかに違っていました。そして、そのポジショニングが私に合っていたのです。必ずしも、誰にとっても合うとは思わないけど、私にとっては明らかに、カリスマ販売員でした。

どういうポジショニングかというと、以下のスライドのとおり。

プレゼンテーションのポジショニング戦略

2軸で示したマトリクス。それぞれの軸を説明すると、

1.横軸:「あなたが欲しいものを一緒に探しますよ」から「プロの私が見立てましょう」へ

そう感じさせてくれたキーワードをいくつか。

  • 「黒ならば、この1点が一番オススメです」
  • 「ネイビーならば、こちらよりもアチラのアイテムの方が断然良いです」

このように、専門家としてリードしてくれました。私の場合、ファッションとかに疎い方なので、プロにしっかりとリードしてくれるのはありがたいのです。また、その姿勢から”売れるならば何でもよい”ではなく”最高のモノしか売らない”という感じが端々からしたのも、安心して任せられた理由のひとつでした。

2.縦軸:「個別アイテムの提案」から「ワードローブ最適化の提案」へ

当日、こんなやりとりがありました。

  • 「今年はスーツの当たり年です。たとえば、来年はコートと靴とかを買うことにして、今年にスーツを多めに買い足すというのもアリですよ」
  • 「スーツは7着くらいで着回せるといいですね。黒が4着で、3着をネイビーとかグレーとかにして。そして黒4着のうち、冠婚葬祭でも使える無地を1着と、あとスリーピーとかを混ぜたりとか」

もちろん、個々のスーツについての必要なセールストークもありましたが、そこよりも気に入ったのが、上記のような説明です。他の店舗では「こないだ黒を買われたのなら、別の方が良いですね」くらいだったのに、えらい違いです。

プレゼンテーションのコア:商品自体が気に入った

あと、当然ながらそのスーツが気に入ったからというのもありました。
優れていない商品を、いくらプレゼンテーションされても、やっぱり買わないよね。

プレゼンテーションの戦術:機能とデザインの両面からの魅力アプローチ

個々の商品についての説明もあったわけですが、それがデザイン面(右脳的)と使いやすさ・機能面(左脳的)の両面から、バランスよくなされていました。エリがいかに綺麗に立つかとか、「スーパー120で目が細かく、非常に丈夫なんです」とか。

プレゼンテーションの戦法:自信と気遣いの両面あるキャラクター

ポジショニングのところでも書きましたが、この店員さん「私に任せてください」という自信ありげな雰囲気で、どんどんお客さんをリードしてく感じだったのです。試着室に入る際も「じゃあ、ネイビーより前に、先に黒を着ましょうか」といったような。どこまでリードするのかと。

一方で、マナー・気遣いも完璧で、いやらしさが全くありませんでした。好印象そのもの。

プレゼンテーションの戦法:参加させてその気にさせる

「じゃあ、ちょっとこちらに来て、ご覧いただいてよろしいですか?」

ライトの下に私を連れていく店員さん。
「光のあるところで見るとわかるのですが、織りガラが…」

もちろん、生地の最高に良い部分を見せてくれる意味が8割なのでしょうけど、”私を動かす”こと自体が結構、購入のトリガーになったと思います。プレゼンで言えば、なんらかのアクションを聴き手にとらせることが大事。自分が参加したこと・関わったことにはアンテナが立つから。

店員さんサイドで話すとこんな感じ。
スーツを購入するということでいうと、もっとも見込み客に取らせたいアクションは試着なわけですが、ハードルは少し高め。だから、試着につながるような小さなアクションをとってほしい。そのひとつとして、店員さんは(無意識かもしれないが)、”ライトの下に、場所を移動してもらう”というアクションを促したんじゃないかと、私は思っています。

総合的に優れたプレゼンは「見事!」としか言えないくなる

とまぁ、様々な切り口から優れたプレゼンだったわけで、これは購入するしかないと。しかも、ワードローブを充実させるために、2着買ってしまいました。

しかし「買わされてしまった!」などといった後悔はなく、清々しい気分です。価値ある買い物だったし、何より優れたプレゼンを堪能させてくれました。

店員さん、ありがとう。
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