from 野村尚義

■五輪招致のプレゼンテーションの全体像

バトンをタッチしていく前回の記事で、お伝えしたポイントは、
“今回のオリンピック招致のプレゼンテーションでは、要素が複雑に絡み合っていた”ということでした。

特に論理に訴えたり、感情に訴えたりの往復が非常に印象的でした。
(そもそも、五輪プレゼンを見ていないという方は、こちらのサイトが充実しています)

様々なスピーカーが順にステージに立つさまは、まるでリレーのバトンタッチのようでした。

そして、リレーが全体で1つのレースであるように、今回のプレゼンも全体でひとつの完成したストーリーなのです。

大まかに流れを解説していきましょう。

■高円宮妃久子さまのご挨拶

ご挨拶に立たれたのは、高円宮妃久子様。ただ、日本への招致のためではありません。

IOCに対して、東日本大震災での被災地支援のお礼としてのスピーチでした。

ですので、東京への票を呼びかけることはありませんでした。それもまた良かったのではないかと。

■佐藤真海選手のストーリー(感情パート)

※全文を読みたい方はこちら

そして次にステージに立ったのが、パラリンピック陸上の佐藤真海選手

彼女は自身の体験を語ります。

自身が病気で足を切り落とさざるを得なくなったとき、スポーツが救ってくれたことを。

東日本大震災で日本が傷を負ったとき、アスリートたちが元気と自信を持ってきてくれたことを。

彼女の話は、ストーリーを通じて委員会メンバーの感情に訴えました。もちろん、私たちの感情にも。

そして、その流れのまま、ある映像が流されます。

■映像上映 Feel the pulse(感情パート)

(0:00-1:46)
被災地を連想させる何もない草原で、バスケットボールを手にするひとりの少年。

そこに現れる、オリンピック選手であろう白人のバスケットボーラー。

ほんの短いひと時、バスケットを楽しむ少年と選手たち。

そして、白人選手は少年に赤いリストバンドを渡し、立ち去っていきます。

…ドクン。少年の鼓動。熱くなったハートを、パルスの曲線が表します。

 

佐藤真海選手のスピーチと、映像が重なる。

スポーツが、少年に夢と希望を与えるさまが、聴き手の胸に刻まれます。

■竹田 恆和氏のスピーチ(論理×感情)

映像の終わりと共に、招致委員会理事長である竹田氏が舞台に。

まずはオリンピック・ムーブメントを支えるIOC委員会への賛辞の言葉

そして、オリンピズム精神への理解。その証拠として、ドーピング違反が過去一切なかったことなどを示します。

 

ここから一転、実務的なモードに入りはじめます。

オリンピックの開催国を選ぶ際、何に重きを置くべきか、3つ示します。

  • 財政的・スポーツ的な意味での継続
  • 大会の確実な成功
  • グローバルなビジョンの実現

そして、それをできるのは東京だと。

東京には3つの強さがあると述べます。

  • Delivery
  • Celebration
  • Innovation

竹田氏のスピーチは、前半はビジョンへの共感を語り、後半にはそれを実現できるのは日本だと語ります。

論理・感情の両面に訴えるプレゼンテーションにも見えますが、後半部分はそれほど具体的ではありません。

あくまで「東京こそがふさわしい理由を語る」という意味では導入です。

それほど、合理的な理由を示してはいません。正直、3つのキーワードの意味もイマイチ抽象的。

■水野 正人氏スピーチ(論理パート)

※スピーチ全文はこちら

それを受けて、水野氏のスピーチからは、具体的・理論的な話に入っていきます。

「why Tokyo?」について語ります。

  • 21社のスポンサー
  • 選手村の環境の良さ
  • 新しいオリンピックスタジアム
  • コンパクトな会場計画
  • 東京を選ぶことこそが、合理的な選択だとプレゼンします。

■競技会場映像上映 Venues(論理パート)

スタジアムの距離感など、水野氏のプレゼン内容をビジュアルに訴えて補足する映像。

要は「私たちがプレゼンで述べていることは、具体的な事実ですよ」ということです。

■猪瀬知事のスピーチ(論理パート)

普段は淡々と威厳を持って話す猪瀬知事が、心なしか情熱的にプレゼンします。

ポイントは3つ。

・輸送面を含む東京のインフラが極めて充実していること
・45億ドルもの大会開催準備基金の存在
・その投資により、オリンピックのレガシーとして多くの施設が残ること

極めて、理論的なパート。
まさに上記3つは、東京を選んだ理由として大きなチェックポイントだったでしょう。

■滝川クリステルさんの”おもてなし”スピーチ(感情パート)

バトンを受けたのはフリーアナウンサーの滝川クリステルさん。アナウンサーらしく、さすがに話し慣れています。

テーマはズバリ「お・も・て・な・し」
おもてなし。

お金を落としても戻ってくるのが、日本であると。それが日本の文化だと語ります。

 

ある種、日本が選ばれる理由を語っているともとれますが、中身は極めて精神性の高い話

むしろ、感情に訴えているパートと言えるでしょう。

でも、結構印象に残りましたよね。

■太田雄貴選手の情熱語り(五感パート)

スピーチ全文はこちら

太田さんはアスリートの立場から、その価値を語ります。

選手村の立地の良さについて。
フェアプレーを貴ぶ日本のファンからの声援について。

そして、その語り方が印象的。

「想像してみてください…東京という都市のまさに中心で生活することを」

「そして、2020 年でのこの情熱を想像してください。各会場は満席になるでしょう」

聴衆の頭の中にイメージを植え付けるような語り方。

論理というよりも、感情というよりも、五感に訴える。

これまで語ったことを、より印象に残すための働きかけのように感じられます。

たんなる、理屈としてのメリットアピールではない。

 

加えて、これからの若者のためのオリンピックであることを語ります。

メッシ・カカ・内村といった実名をあげ、彼らはヒーローに憧れてスポーツを志したと。
そんな彼らがいま、憧れられる側として、次世代のヒーローに刺激を与えていると。

この部分は、後から流れる映像”share the pulse”へと引き継がれます。

■安倍晋三首相の名スピーチ(感情パート)

多くの方は安倍首相のプレゼンを聞いて思ったのではないでしょうか。

「思ってた以上に、うまいじゃないか!」私も、そう思いました。

長く語ると予想された汚染水問題についてはサラリと済まし、思いの外時間を取ったのは自身の昔話でした。

大学生のとき、オリンピックで見たことをきっかけにアーチェリーを始めたこと。

それは、オリンピックへの強い情熱として語られます。

 

しかし、単に情熱を伝えるだけではありません。

「オリンピックが遺すものは、建造物ばかりではない。人を作ることだ」

そんな強いメッセージを展開します。

グローバルなビジョンのもとに、人に投資をしていく。それこそが大切だと。

事実、日本は3000人以上の若者がスポーツインストラクターとして世界80カ国以上に乗り出していると。

さらに語ります。
2020年に東京を選ぶとは、その動きをさらに加速させることだと。

日本はSports for tommorowプランのもと、世界のより多くの人のもとへとスポーツの喜びを届けると。

 

そして、最後に締めます。

「東京を選ぶということ。
それはオリンピック運動の、情熱と誇りに満ち、強固な信奉者を選ぶことに他なりません」

次世代の人をつくること。
多くの人にスポーツの喜びを届けること。
東京を選ぶことで、IOCはそういう仕事をするのです。

私には、そんな風に聞こえました。

■映像上映 Share the pulse(感情パート)

プールサイドに座る少女が、何かに動かされたかのようにスタート台に立つ。
そして、勇気をもって水中に飛び込む。

車椅子の青年は、パラリンピックの映像を眼にして、自分にも何かできると奮い立つ。
クローゼットの奥から昔のテニスラケットをとりだして、公園に向かう。

フェンシングで戦う選手が、次のシーンでは後進の育成に目を輝かせている。

テコンドーの勝負のあと抱き合う選手たち。そこにあるのはスポーツマンシップ。
そんな二人を目にしたサッカー少女は、試合後にライバルチームのもとに手を差し伸べるように。

 

そして場面はかわって、バスから見えるどこかの路地裏。

そこで、バスケットボールを持つ黒人の少年。

そんな少年のもとに近づく、オリンピック選手であろう日本人の青年。

その腕には、赤いリストバンドが。

 

すべては、引き継がれている。

今のヒーローが、将来のヒーローたちをつくっていく。

これこそが、今回のプレゼンテーションを一貫しているメッセージだと、私は思います。

■竹田恆和氏まとめスピーチ(感情パート)

最後のスピーチの全文はこちら

最後に、竹田理事長が情熱的にプレゼンテーションをまとめます。思いを伝えます。

そして、最後には具体的なアクションを促す。

「東京に投票してください。
それはスポーツに恩恵をもたらすグローバルなビジョンへの投票です。
今日から2020年まで、そしてその後何十年にもわたって」

なぜ、その後何十年にもわたってスポーツに恩恵をもたらすのか?

答えは、次のヒーローたちが生まれる原点になるのがこの東京オリンピックだからです。

 

では、このプレゼンテーションは、なぜIOCに選ばれ、求められたのか?
3つの柱で訴えたことが私はポイントだと思います。詳細は続きの記事にて。 

 

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