~目次~
■ブラック・プレジデントに見るウィッシュを描くプレゼンテーション
フジテレビで放映中のドラマ「ブラック・プレジデント」がとても面白いです。
アパレルブランド「トレスフィールズインターナショナル」の創業社長 三田村幸雄は、同企業を一代で急成長させた辣腕社長。
その彼が、経営が安定してきたのを機に、大学の社会人枠で大学入学してしまいます。
「バリバリ働くのは当然。若い時の労働は報酬だ!」といわんばかりの三田村と、
社会を経験するまえでぬるま湯状態の学生たちのやりとりがとても面白い。
そして、凄腕社長ならではの名言も多々出てきます。
そんなブラック・プレジデントで、一昨日の放送が名プレゼンの3連発だったのです。
場面は、文化祭を直近に控えた映画サークル。
三田村は「青春っぽいことは、かたっぱしからやりたい」との思いから模擬店をメンバーに提案します。
しかしサークルメンバーたちは「苦労のわりに儲からない。バイトしたほうがマシ」
と乗り気ではありません。
ここで、三田村は主要メンバーを個別で口説くことにします。
そして、ここが名プレゼンなのです。
ざっくり結論を述べると、受け手視点の提案と、受け手の性格を加味した立ち位置取りが抜群にうまい。
以下、2014年4月29日放送の第4話より場面を引用して、それから解説します。
■映画制作イノチの健太先輩へのアプローチ(以下3つ、ドラマから引用)
三田村「健太先輩、最近ぜんぜん映画つくってないじゃないですか?どうしてですか?」
健太「どうしたんだよ、急に?
いや、そりゃ映画つくりたいけど、今はお金ないし…。バイトして貯めるよ。」
三田村「お金なら、すぐにつくる方法がありますよ」
健太「えっ?どうやって?」
三田村「模擬店(笑) 学園祭で模擬店やって、その利益で映画つくるんですよ」
健太「…でも、みんなで稼いだ金を俺の映画に使うなんて、まずくね?」
三田村「そこをなんとかするんじゃないですか!
個人の映画じゃなくて、サークルの映画にするんですよ。
模擬店から映画製作までをトータルでパッケージした企画書をでっちあげて」
健太「でも、模擬店なんてどうせ儲からないだろ?」
三田村「それはやり方次第でしょ!
ねねね、もしお金がふんだんにあるとしたら、映画にいくらかけたいですか?」
健太「…うーん、10万とか?」
三田村「ちっちゃい、ちっちゃい!30万円くらいドーンといきましょうよ」
健太「30万って、超大作じゃん!そしたら移動撮影もできる?」
三田村「できるできる!・・・移動撮影ってなに?」
健太「カメラが横にすーって移動したりするだろ?あれ、ドリーがないとできないんだよ」
三田村「じゃあドリーも連れてきましょうよ。もう、みんなでやろ!」
健太「クレーンは無理かな?」
三田村「できるできる!…もう、考えてもみてくださいよ。
ね、30万円をバイトして貯めるってのが、どれだけ大変か?!
でも模擬店なら、みんなの労働力を利用してたった二日で稼げるんですから」
健太「いや、、、でもそんなにうまくいかないだろう?」
三田村「つべこべ言わずにやる。それが成功の第一歩なんです」
健太「…まぁ、みんながやるっていうんなら。。。」
■起業をしたいと言いつつも口だけ気味の亮介へのアプローチ
亮介「話っていうから何かと思えば、模擬店?」
三田村「そうだ。やれ!お前がリーダーだ」
亮介「そんなこと言われてもさぁ。。」
三田村「亮介、お前自分で会社つくりたいと思ってるんだろ?」
亮介「うん。。。」
三田村「こういうときに自分の力を試そうとしないやつが、会社なんかつくれるわけないだろ?!」
亮介「どうすればいいか、わかんねぇじゃん?」
三田村「大丈夫だよ。俺がアドバイスしてやるから」
亮介「ほんとにぃ?」
三田村「でもな、あくまで俺はアドバイザーだ。リーダーは亮介、お前だ!」
亮介「・・・」
三田村「こういうのってな、結構就職にも有利なんだぞ?」
亮介「えっ、そうなの?」
三田村「そりゃそうだよ。
学園祭でみんなを指揮して利益30万円あげたって実績があればポイント高いだろ。
少なくともうちの会社にそういう学生が来たら、俺は評価するな~」
亮介「え、そぉ?」
三田村「こんな二流大学なんだから、それくらいのアドバンテージがないとろくな会社入れないぞ。
ここでやる気をだすかどうかが、結構お前の人生の分かれ道かもしれないなぁ」
■ふわふわ女子大生の夏美へのアプローチ
三田村「で、どうかな?」
夏美「あぁ、模擬店?
なんていうかなぁ、なんかダサくない?手書きのポスターとか、ショボいっていうか」
三田村「ううん…」
夏美「あとアレ。雨が降るとすごい悲惨なんだよね」
三田村「あぁ。でもさ、それも含めて模擬店のアジでしょ?
ねぇ、模擬店って意外と、男女の出会いの場らしいよ」
夏美「…そうなの?」
三田村「うん。だってほら、看板娘ってモテるでしょ?
知ってる?女の子って、エプロンつけてるだけで、3割はモテ度があがるんだって」
夏美「マジ?!」
三田村「おう!」
夏美「…あ、でも看板娘って店にひとりだよね。。」
三田村「うちのサークルだったら、夏美ちゃんしかいないでしょ!」
夏美「…そう、、かな?」
三田村「そうだよ。だって他にだれがいる?いないいない!」
夏美「ほんとに?」
三田村「ほんとほんと。あ、パフェも食べる?」
■相手の特有ニーズをかなえる提案としての模擬店
さてここまで引用でした。では、いよいよ解説です。
3つのアプローチに共通するのは、一般論としての模擬店の良さをアプローチしていないところ。
「楽しい」「青春っぽい」といった三田村自身のニーズは置いておいて、相手にフォーカスしています。
映画を撮りたい健太には、映画の製作費を稼げるという。
そして、それを実現するためにパッケージプランを提案する。
さらに「もしお金がふんだんにあるとしたら、映画にいくらかけたいですか?」とイメージを想起させる。
起業したいという亮介には、腕を試す場所だという。
意外と反応が鈍い亮介に「あ、こいつ起業とか本気じゃないな」と思ったら、就職活動の話もおりまぜる。
特にやりたいことが明確でない夏美には、モテることと可愛いエプロン姿で釣る。
「これだけ!プレゼンの本質」P139で書いた
受け手のウィッシュに思いを巡らせ、未来を描くが見事になされている典型例です。
(ウィッシュとは、一般論ではなく目の前の相手特有の願いです)
模擬店がいいから、模擬店をやるのではありません。
模擬店をやることで「あなたの願いがかなう」から模擬店をやるのです。
三田村氏のプレゼンテーションは、そこが徹底されています。
特にプレゼンにおいて、自分が良いと思うものをプレゼンするわけですから、
つい「俺が良いと思うものなんだから、キミもそうおもうだろう!」とやってしまいたくなる。
ここでいえば「模擬店、楽しいじゃん!思い出に残るじゃん!」とやってしまう。
ですがこれでは受け手の心に届きません。
そうやらないのは、三田村氏のプレゼンテーションはさすがです。
受け手視点とはどういうものなのかが、とてもわかりやすく理解できますね。
■模擬店をやらない未来を、痛みにつなげる
もうひとつ特徴的なのは「模擬店をやったら、こんな素敵な未来が待っているよ」だけでないところ。
同時に「模擬店をやらなかったら、こんなに痛い目を見るよ」と描いているのです。
健太には「30万円をバイトで貯めようと思ったら、どれだけ大変か?」とえぐる。
亮介には「こんな二流大学なんだから、それくらいのアドバンテージがないとろくな会社入れないぞ」とやる。
フィア・アピールという技法ですが、これは非常に強力な技です。
よく聞く言葉だと思いますが、
「人間が動くのは、快を得るためか、痛みを避けるためかのいずれか」
です。
しかし、このふたつは並列ではなく、明らかに痛みを避けたいというパワーが大きい。
だって、歯が痛いときに、歯医者に行くか、ディズニーランドに行くかって言ったら、歯医者に行きますよね(笑)
健太や亮介にとって、模擬店をやらないことはチャンスを逸するという痛みにつながるように、三田村は設計したのです。
ただし、このフィア・アピール、やり方をうまくしないと、相当いやらしく聞こえます。
語る必然性がそこに感じられるかどうかが、ミソですね。
だからあえて、ふわふわ女子大生の夏美にだけはそれをやらなかったのもポイントです。
■相手のキャラクターに合わせて、自分のポジションを変える
3つのやりとりそれぞれを見ると、三田村がどんなキャラクターなのかわからなくないですか?
そう、彼は相手にあわせてポジションを変えているのです。
クールぶった健太先輩には、甘える後輩のポジションから「先輩にいい話あるんです」とやる。
いわば、下から寄っていくアプローチです。
大きなことを言っても優柔不断な亮介には、ビジネスの大先輩の立場から「お前やれよ!」とやる。
やる理由よりも先に、やるべきことを突きつける。上からアプローチです。
最後に、夏美には「こういうの知ってる?」と横からのアプローチ。
男性には上下関係アプローチ。女性には横のアプローチというのは王道パターンです。
これは単に上・下・横を多面的につかっていることがポイントなのではありません。
相手に合わせて、うまく使い分けているのです。
ジャンケンで、グーがチョキに勝って、チョキがパーに勝つように、組み合わせの相性というのがある。
そして、それを私はエゴグラムで解説できると仮説を持っています。
このあたりは、いずれまたメルマガで書きますね。
■辣腕社長からプレゼンを学ぶ
これらのトーク、あなたのプレゼンテーションにも参考になると思いませんか?
フィクションではありますが、三田村は一代で起業を成功させた経営者です。
その経営者からプレゼンを学ぶというのは、心わしづかみのプレゼン術習得のためになってくれます。
そうでなくても、これらのトークは売れっ子脚本家が「最高のトークをしているところを描こう」
と思った結果しあがっている脚本なわけです。
いずれにせよ、勉強にならないわけがありません。ぜひ、学び取ってみてください。