The power of word(言葉の力)
Youtube上のあるショートフィルムが、なかなか深いと評判です。それがこちらの動画。
ほんの100秒ほどの映像。 盲目の老人が、道路脇に座っているシーンから始まります。老人の横にはダンボールでつくったボードが立てかけられていて、そこには老人自身が書いたであろうメッセージが。
待ちゆく人にお金を恵んでもらおうとする老人。しかし、決して多くの人が彼にコインをくれるわけではありません。恵んでくれる人も、コインを乱暴に投げ渡す感じ。 そこに現れた女性。勝手に、老人のボードを書き換えてしまいます。
書き換えると、何も言わず彼女は立ち去ってしまう。 すると、どうでしょう。それを境に、急に街を歩く人が、老人にコインをくれるようになった。しかも、軽く膝を折り、差し出すようにコインをくれるのです。 老人はびっくりです。何が起きたのかと。
しばらくすると、例の女性がまた現れる。老人は、彼女に尋ねます。 「ボードに何て書いたんだい?」 彼女は答えます。 「元々と、同じことを書いただけよ。ただし、すこし違う表現でね」 そして、そこで彼女が書き換えたボードがアップになる。
この動画、1600万viewを越え、10万人以上の人が高評価ボタンを押しています。そして、多くの人たちが動画をシェアしています。 この動画、タイトルがPower of Wordsなわけですが、まさに言葉の力が感じられます。
だからこそ、人々の間で伝播していくのでしょう。 では、ここでいう言葉の力の正体とは何か? 少し考えてみたいと思います。
正体1:先に与えること
最初のメッセージ「I’m Blind. Please Help」は、表現を変えると奪うメッセージです。
うがった見方をすると「目が見えない俺は、可哀そうだろ? あんた、そんな俺を無視するようなひどいこと、しないよな? 可哀そうだと思うんなら、助けてくれよ。金くれよ」と受け取れなくもない。
だから、お金を恵んでくれる人も「くそっ、俺に罪悪感を感じさせやがって…」そんな思いがあるから、コインの渡し方が乱暴になるのではないでしょうか?
一方、書き換えられたメッセージ「It’s a Beautiful day. And I can’t see it.」は違います。与えるメッセージなのです。
普通に生活を送っていたら、今日という一日がステキだなんて、いちいち実感しながら道を歩きません。でも、ボードを見た瞬間に、自分の一日はステキだと気付く。ボードを通じた老人の働きかけに、気付かせてもらったと言えます。
そんな、小さいながらもハッピーを感じさせてくれた老人。その彼自身は、そのハッピーを味わえない。見えないから。 だったら、助けの手を差し出してあげたいと思う。小さなハッピーをくれた貴方に、私も小さなハッピーをプレゼントしようと。
私たちの多くは、他人の不幸に鈍感です。いわゆる対岸の火事。良く知らない老人の目が見えないという不幸は、遠い話。でも、小さなハッピーをくれた老人とは、少しだけ心の距離が近づく。
そんな彼の不幸は、放っておけなくなるのでしょう。プレゼンテーションの語源は、プレゼント(贈り物)です。書き換えられたメッセージは、しっかりとプレゼントになっていた。だから、お返しが来たのではないでしょうか。
正体2:情緒的な表現により、その悲しさが伝わる
言語学の世界では、言葉には2つの機能があるそうです。指示的機能(referential function)と、情緒的機能(affective function)。
指示的機能とは、客観的な事実を表す機能。「水は百度で沸騰する」とか。 老人の書いた「私は目が見えない」は、この指示的・客観的事実のように感じられます。
情緒的機能とは、話し手の感情・態度など、積極的な関わりを含むもの。「きっと、大丈夫だよ」とか。 女性が書き換えた「ステキな一日だね。でも僕には見えないんだ」には、そこに悲しみの感情が色濃く受け取れます(あなたも、そう感じるのでは?)。
だからこそ、その悲しさに共感し、助けてあげたくなる。 目が見えないという事実だけでも、老人のつらさは想像つきます。しかし、そこには想像するというプロセスが必要。「彼は目が見えないことによって、どんなに不便な生活を送っているんだろう?」自分に問いかけたあとで、初めて共感するのです。
逆にいうと、その問いかけを自分にする余裕がなければ、老人のつらさには気付かないままスルー。 後者は、情緒的なメッセージが、問いかけなしに入ってくる。急いで歩く道すがらですから、その差は大きいです。
私たちは、The Power of Wordsを十分に活かしているか?
さて、この動画、最後にひとつのフレーズで終わります。それが、以下のメッセージ。
Change your words. Change your world.
私たちは、世界を変えることが出来る。言葉を変えるだけで。 その力、十分に活用したいものです。そのためにも、言葉を磨かなければ。